「Naughty Dogを始めとするPlayStation Studios主力スタジオには、十分な予算の下で思う存分高品質なゲーム作りに集中してほしい」とストーリードリブンのAAAゲームファンは願っていると思います(私もそうです)。
しかし残念なことに、Jim Ryan元CEO体制末期のSIEは、明らかにその流れを阻害してしまっていました。特にNaughty DogとInsomniac Gamesはそのあおりを受けて開発が遅れてしまっていると思われます。
SIEが掲げたライブサービスゲーム戦略
どういう事態が起こっているのか説明するために、SIEのライブサービスゲーム戦略についてざっくりまとめます。
2021年当時の記事を漁ると結構出てきます。PlayStation Studiosの下記7スタジオからマルチプレイヤーの噂が出ています。
- The Last of Us II ( Naughty Dog ) マルチプレイヤー
- Insomniac Games マルチプレイヤー
- Horizon ( Guerilla Games ) マルチプレイヤー
- Sucker Punch Productions マルチプレイヤー
- Bend Studio マルチプレイヤー
- London Studio オンラインゲーム
- Twisted Metal ( PS3時代のIP ) リブート
- 当初は Destruction Allstars の Lucid Games 開発だったが、後に Firesprite 開発に変更
後にSanta Monica Studioでも同様の記事もあがっており、主力スタジオはいずれもマルチプレイヤーにリソースを割いているようです。
ちなみに下記3つのURLはいずれもSIE出資スタジオの記事です。このうち、HavenとFirewalkは後にSIEに買収されます。
今振り返るとBungie買収が転機だったと思われます。過剰投資への流れが出来上がってしまいました。
アサクリ1作目のプロデューサーのJade Raymond氏によって2021年に設立された60人規模のスタジオを買収します。ちなみに氏は当時32歳にしてアサクリを大成功させたクリエーターとして有名とのこと。
買収時点ではHaven Studiosとしてのゲームリリースの実績はなく、青田買いでした。
記事内で引用されている当時のSIE財務報告書によると、Bungieより得たライブサービスゲームのノウハウを自社作品に展開していくとのこと。
2021年度中に1本、22年度中に2本、23年度中に3本、24年度中に4本、25年度中に2本、と毎年ライブサービスゲームの数を増やしていき、合計12本にする計画。
記事ではフラグシップタイトルと書かれており、SIEライブサービス戦略の核となる作品の一つと思われます。おそらく「2025年度末までの12本」のうちの1本。
中国の中小クリエイターを支援するSIEのプログラム ( China Hero Project ) から本作「Convallaria」と「Lost Soul Aside」が大きく育ち、SIEパブリッシングによる全世界リリースが発表されました ( 発売はまだ先のよう ) 。
Convallariaはライブサービスゲームのようですが、SIEパブが決まったのはライブサービス戦略が定まってからだと思われます。そのため「2025年度末までの12本」のうちの1本ではなさそうですが、参考までに取り上げました。
Call of Duty・Apex Legends・OverwatchなどのFPS大作を開発してきたベテランが多数在籍する150人規模・2018年設立のスタジオを買収しました。
買収時点ではFirewalk Studiosとしてのゲームリリース実績はなく、Haven Studios買収時と同様に今回も青田買い。
SIEがライブサービスゲームに注力し12本リリースを目指すと声高に宣言した約一年後、本作の開発中止が発表されました。
本作が「2025年度末までの12本」のうちの1本であったかは不明ですが、もしそうであるなら、最初の開発中止タイトルだった可能性があります。
Final Strike Gamesのニュースに引き続き、Deviation Gamesのライブサービスゲームも開発中止になりました。なお、同スタジオはその後立て直せず翌年に閉鎖してしまいます。
同社はSIEとパートナーシップを結んでおり、契約期間中はセカンドパーティーのような立ち位置でした。したがって本作は高い確率で「2025年度末までの12本」のうちの1本だったと思われます。
ちなみにHavenとFirewalkも同様のパートナーシップを結んでおり、その後買収が決まりました。DeviationもSIE傘下に加わるのが既定路線と見られていたこともあり、SIEの雲行き怪しい雰囲気がはっきり漂い始めます。
- Helldivers 2【 PS5 / PC 】
- Arrowhead Game Studios開発。2015年の前作 ( 開発:同社 / 販売:SCE ) は見下ろし型のPvEシューターだったが、本作はTPSに変更。
- Fairgame$【 PS5 / PC 】
- Haven Studios開発 / サンドボックス型の争奪戦PvP。同スタジオのデビュー作。
- Concord【 PS5 / PC 】
- Firewalk Studios開発 / PvPマルチプレイFPS。同スタジオのデビュー作。
- Marathon【 PS5 / Xbox Series X|S / PC 】
- Bungie開発 / PvP脱出シューティングゲーム。同社は1994年に同名のFPSゲームをリリースしており、リブートと目される。なお、Xboxにも発売予定 ( 買収時にPS独占契約は取り付けられなかったとのこと ) 。
建前はワークライフバランスとされてはいますが…。
2023年度をもって退任となり、2024年度からはソニーグループ本体の十時氏が暫定CEOを務めることに。十時氏はソニー銀行出身。
Jim Ryan CEOの退任が決まってから、ライブサービス戦略にテコ入れが入っていきます。
まずはBungieにレイオフが容赦なく入りました。人員をつなぎとめるために高値で買収したにもかかわらず、今になって人員削減というチグハグ。。
6本延期とされていますが、実際のところはDeviation Gamesのプロジェクトはこの時点で既に中止になっているとにらんでいます。
本作に関しては開発の最終盤まで進んでいたようで、「リリース中止」と表現した方が正しいかもしれません。
当初は2022年中のリリースを目指していましたが、Bungieによるレビューを通過できず遅れが生じました。それでも2023年末にかけてブラッシュアップを進めたものの、最終的には運営コストがネックになったとのことです。
Naughtyの持ち味であるAAAシングルプレイゲームの開発を諦めて、本作の運営のみに集中するスタジオに転身する道もありえたというので驚きです。
900人という数字はインパクトがあります。全世界の従業員の8%ほどにあたるそうです。
Naughty Dog / Insomniac Games / Guerilla Games / London Studio / Firespriteなどが人員削減の対象となったようで、特にLondon Studioはスタジオ自体が閉鎖してしまいました。
本作はGuerillaだけで開発しているわけではなく、韓国のNCSoftが開発に協力しているという噂です。上手く外注に頼ることで、シングルタイトルとマルチタイトルの開発を両立しているようです。
おそらくNaughtyと同じく、シングルプレイゲームに集中するために開発中止したものだと思われます。
この時系列を追うと、当初はイケイケドンドンで投資したものの、実際開発を進めてみるとライブサービスゲームを成功させる難しさに直面して苦しんでいるのがよく分かると思います。
「リリース予定だった12本」と「開発延期された6本」
2022年5月の財務報告書にて、ライブサービスゲームを合計12本にする計画と宣言しました。各年度の内訳は以下の通り。
- 2021年度:1本
- 2022年度:+2本
- 2023年度:+3本
- 2024年度:+4本
- 2025年度:+2本
注目すべきは2021年度の1本でして、これはつまり財務報告書を発表した時点で1作が既にリリース済みであったということを意味します。財務報告書の書きっぷりからいってこの1作はMLB The SHOWのようです。
残りの11本の内訳は直接発表されていませんが、ここまで挙げてきた色々な記事の情報を考慮することで予想できそうです。合っているかはわかりませんが予想してみます。青字が発売済・発売予定、赤字が開発延期です。
- 1本目 ( ~ FY2021 ) :MLB The SHOW
- 2本目 ( ~ FY2022 ) :グランツーリスモ7
- 3本目 ( ~ FY2022 ) :The Last of Us Factions 2 ⇒ 開発中止
- 4本目 ( ~ FY2023 ) :Helldivers 2
- 5本目 ( ~ FY2023 ) :Twisted Metalリブート ⇒ 開発中止
- 6本目 ( ~ FY2023 ) :Deviation Gamesマルチ ⇒ 開発中止・スタジオ閉鎖
- 7本目 ( ~ FY2024 ) :Concord
- 8本目 ( ~ FY2024 ) :Fairgame$
- 9本目 ( ~ FY2024 ) :Marathon ⇒ Bungieレイオフによる開発遅れ
- 10本目 ( ~ FY2024 ) :London Studioマルチ ⇒ 開発中止・スタジオ閉鎖
- 11本目 ( ~ FY2025 ) :Jetpack Interactiveマルチ ⇒ 続報なく開発遅れの可能性有り?
- 12本目 ( ~ FY2025 ) :Horizonマルチ
グランツーリスモ7は2021年度末の発売ですが、ライブサービスゲームとしてのサービスが本格化したのは翌年度からということで、2022年度にカウントしてみました。
ラスアスとホライゾンに関しては実写企画とできるだけ連動させたい意図がおそらくあって、ラスアスは納期設定が元々タイトで、ホライゾンは比較的緩かったのだと想像しています。
ちなみに今回取り上げた全てのマルチプレイヤーを足し合わせると12本を超えてしまいます。必ずしも「マルチプレイヤー」=「ライブサービスゲーム」というわけではなさそうです。
キャンセルされたスパイダーマンのマルチやBend Studioの続報を見るに、これらは「ライブサービスゲーム」相当のプロジェクトに格上げされたように見えますが、当初は「単なるマルチ」として企画されていたのだと想像します。
最後に
最終的に頓挫してしまったThe Last of Us Factions 2とMarvel’s Spider-Man: The Great Webにかけていたリソースを、最初からシングルプレイタイトルに向けてくれていたら、と思わずにはいられません。
2024年度は既存IPのビッグタイトルは発売されないという発表がありましたが、そもそもSIEの戦略・投資ミスが無ければそうはならなかったはずです。
とはいえ、SIE自身も予想外だったろうHelldivers 2の大ヒットや、HBOドラマが超高評価を博したラスアスなど、良いニュースもあります。特にマルチメディア戦略は、地道ですが確実なブランディング効果があると思っています。
いちユーザーとしては、優秀なスタジオに優秀な作品を提供してもらえれば言うことはありません。そのためにも、ここからなんとか挽回していただきたい…!
以上です!