【ゲーム会社史】そのゲームを作ったのはというyoutubeチャンネル様に、【完全解説】個人開発の大傑作「UNDERTALE」とTobyFoxの歴史 1991~2024という動画の台本を提供しました。
この記事は、その台本の ( 初稿の ) ベタ貼り記事です。文字情報でザザっと追いたい方用です。
実際の動画では投稿主様の方で一部内容修正されているので、動画にはない情報も含みます。補完関係になっているので、流し読みでも構わないのでご覧いただけたらと思います。
こちらの記事もオススメです。
「マンガのブログ」という別ブログもやっています。
はじまり
この動画をご覧の皆さんは『UNDERTALE』をご存じの方が多いと思いますが、その作者のTobyFox氏についてはどれほどご存じでしょうか。Fox氏はアメリカ人ですが、日本のゲームが自分の血肉になっているとまで語るほど、日本と関わりの深いゲームクリエイターです。弱冠23歳にしてUNDERTALEを発表したFox氏。いったいどんな人生を歩んでUNDERTALEという傑作の制作に至ったのか、そしてUNDERTALEで大成功を収めて以降どういった活動をされているのか。この動画ではFox氏について徹底解説いたします。
Fox氏は1991年にアメリカの東海岸にあるマンチェスターという都市で生まれました。イギリスにも同名の街があってサッカーチームで有名ですが、Fox氏はアメリカの方のマンチェスター育ちです。四人兄弟の三番目の子として生まれ、物心がつく前から兄たちにひっついてTVゲームで遊んでいたそうです。
そんなゲームの虫であるFox氏が、一番影響を受けたとされるのが『MOTHER』シリーズ。コピーライターが本業の糸井重里(いといしげさと)氏がゲームデザイン・シナリオを手掛けたRPGシリーズとして知られています。当時ドラクエ・FFといったファンタジー作が席巻していたRPG界に対するカウンター狙いで、現代アメリカを舞台としたSFモノとして売り出された本作は、狙い通りのヒットとなりました。任天堂初のコマンド式RPG作品ということもあって肝いりのタイトルとして扱われていて、特に2作目『MOTHER2 ギーグの逆襲』は後に任天堂社長を務めることになる岩田聡(いわたさとる)氏がプログラマーとして参画しており、高い評価を得ています。
Fox氏が初めて触れたMOTHERタイトルも、このMOTHER2でした。本作は日本では1994年に発売されたのですが、北米では翌年1995年発売。実は北米向けにタイトルが変更されており、現地では『EarthBound』というタイトルで知られています。北米では1作目『MOTHER』が未発売であったことから、ナンバリングを廃したタイトルが付けられたそうです。Fox氏の兄が誕生日かクリスマスプレゼントでこのEarthBoundを手に入れたのがFox氏とMOTHERシリーズの出会いでした。当時3,4歳だったFox氏はまだアルファベットを覚えたての頃で、EarthBoundで色んな単語を覚えたと言います。MOTHERシリーズと出会って自分がどう変わったか分からない、そういう意味で自分の血肉になっているとFox氏は語っているのですが、まさに物心が付くか付かないかという頃からMOTHERシリーズと共に成長されてきたそうです。
幼少期のFox氏にとってEarthBoundの体験は強烈だったそうですが、それ以外のゲームもたくさん遊んだと言います。その中で興味深いのが『ロックマンX』のエピソード。当時まだ5歳だったFox氏と兄弟たちは、日曜日になると親に連れられて教会へ通っていたそうなのですが、すぐに退屈してしまってお絵描きで遊んでいたといいます。そのお絵描きの内容というのが驚きでして、なんとロックマンXのステージレイアウトを描いて遊んでいたそうです。こんなステージがあったら面白い、とオリジナルのステージを作っては、兄弟で見せ合って遊んでいたんだとか。ちなみにお絵描き当時はまだ『X3』までしかリリースされていなかったそうですが、Fox氏は画用紙に『X7』と書いていたらしく、その頃にはカプコンが自分のデザインを使ってくれるのでは、と考えていたそうです。
このようなエピソードから分かるように、Fox氏にとってゲームは、遊んで楽しむものであると同時に、作って楽しむものでもあったようです。兄弟同士でこんなゲームが作れたらきっと面白いという妄想をぶつけ合って過ごしていました。そんな折に、兄が『RPGツクール』というソフトを見つけてきます。本作は端的に言うと、ゲームを作るゲームでして、例えるならばマリオメーカーのRPG版のようなタイトルでした。好きなシナリオ・キャラ・マップ・音楽のRPGを作ることができるゲームで、戦闘こそターン制のコマンドRPGでなければならない縛りがありましたが、工夫次第で異なるジャンルのゲームチックに仕立てることも可能でした。例えばホラーゲームの『青鬼』なんかは、実はこのRPGツクール製だったりします。
Fox氏たち兄弟にとって、このRPGツクールは自分たちの妄想を一本のゲームとして実現するのにうってつけのソフトでした。Fox氏も自分が主人公のゲームをいくつか作りかけますが、中盤くらいでつまずいて完成させることができなかったといいます。Fox氏にとって印象に残ったのは、むしろ兄たちが作ったソフト。上の兄が作ったゲームは幼いFox少年にとってはプロが作ったものに思えるほどの出来だったそうで、大人になった今でも細かい設定をスラスラといえるほど印象に残っているそうです。しかし、上の兄は制作に何年もかけてしまい、そうこうするうちに序盤の出来が気になってきて手が進まなくなり、ついに未完成となってしまったそうです。対して下の兄は、本来なら物語中盤くらいの場面で唐突なレベルアップイベントを設けて一気にゲームを進行させ、そのままラスダン・ラスボス・エンディングという力技で作品を完結させたそうです。本作は兄弟で初めて完成まで辿り着いた作品だったそうで、間近で見ていたFox少年は、作品を完成させることの大切さ、自分のキャパシティに応じた規模のゲームを企画することの大切さを学んだそうです。
と、ここまでゲームクリエイターとしてのFox氏の原体験について話してきましたが、Fox氏はゲーム音楽のスペシャリストでもあります(UNDERTALEの音楽は全てFox氏本人が作曲しています)。そんなFox氏に大きな影響を与えたのが、『ライブアライブ』など数々のゲーム音楽を手掛けてきた下村陽子(しもむらようこ)氏と、『東方Project』の作者・作曲家のZUN(ずん)氏です。他に植松伸夫(うえまつのぶお)氏・光田康典(みつだやすのり)氏からも大きな影響を受けたと語っていますが、先述の下村氏とZUN氏とはネットに対談記事も上がっており親交が深いようです。
まず下村氏の影響について。下村氏が作曲を手掛けた作品でFox氏が最初にハマったのは『スーパーマリオRPG』だったそうです。ゲームを全クリした後には、サントラで音楽を聞きまくっていたらしく、後に『KINGDOM HEARTS』が発売されたときには「この曲はもしかして下村さんでは…?」と曲調から下村さんの曲に気づけるようにまでなったとか。中学生の頃から作曲を勉強し始めたと語るFox氏は、下村氏の曲を耳コピしてコードの使い方やどのコードがどの感情に訴えかけているかを学んでいったといいます。ちなみにUNDERTALEで1, 2を争う有名な楽曲で『MEGALOVANIA』という名曲がありますが、この曲名は下村さんが『ライブアライブ』で作曲した『MEGALOMANIA』という一曲が元ネタだそうです。この曲に関してはエピソードがあるので、また後ほど触れることとします。
続いて、ZUN氏の影響について。ZUN氏は東方Projectという同人・弾幕シューティングゲームシリーズを20年以上個人制作しているゲームクリエイターです。YouTubeをご覧の方にとっては、東方Projectは『ゆっくり霊夢』と『ゆっくり魔理沙』の元ネタ、と言った方がもしかしたらピンとくるかもしれませんね。この作品の音楽は極めて評価が高く、Fox氏もZUN氏の音楽に魅了されたファンの一人でした。Fox氏は10歳の時に初めて東方に触れたそうなのですが、その当時の東方はまだ日本国内でも人気が出始めた頃だったらしく、海外ファンというのは相当に珍しかったといいます。フリーゲームのWebサイトでたまたま体験版を遊んだのがきっかけで東方にハマったFox氏は、その後輸入ショップをチェックしまくってようやく製品版をゲットしたらしく、東方に対する熱の入りようは凄まじいものがありました。特に『東方妖々夢』のプレイ中に流れる『ネクロファンタズマ』という一曲に魅了された当時中学生のFox氏は、この曲を弾きたくて独学でピアノを練習するようになったと語っています。高校生になってこの曲を無事マスターし、サマーキャンプで披露したときにはスタンディングオベーションをもらったらしく、特に印象に残っている一曲なんだとか。Fox氏は高校生の頃にクラブ(日本のいわゆる部活は海外にはない)でトランペットも吹いていたらしく、音楽の素養は中高生の頃に磨かれたようです。【この辺でピアノを弾いているYouTube動画を動画の背景に引用すると良いかもしれません】
ゲームクリエイター・作曲家としてのキャリアスタート
さて、Fox氏は幼いころからRPGツクールでゲームを制作していましたが、それはあくまで兄弟同士で遊ぶためのものでした。しかし2006年(の1月・中学2年生の頃)には『EarthBound Arn’s Winter Quest』という作品を、そして2008年(のハロウィン・高校2年生の頃)には『EarthBound Halloween Hack』(以降EBHHと呼びます)という作品をインターネット上で発表します。いずれもMOTHER2のロムハックタイトルでした。ロムハックとは、ゲームエミュレータという機器を使って実機のゲームをPC上に吸い出してそのゲームを改造する行為を指す言葉で、法整備が進み倫理的な感度が引き上げられた昨今の世相では褒められた行為ではありません。しかし当時はアングラでグレーな楽しみ方として黙認の風潮でした。有名なのは『スーパーマリオシリーズ』のロムハックタイトル群で、ニコニコ動画の初期にはこうした改造マリオのプレイ動画が多数アップされ人気を博していました。しかしこれらの動画は2015年に『スーパーマリオメーカー』が任天堂公式より発売される直前に一斉削除されてしまいます。このマリオメーカー自体、改造マリオに着想を得た作品だとも言われており、この辺のエピソードはいくらでも膨らませて語れそうなのですが本筋から外れてしまうので自重します。
さて、Fox氏によるMOTHER2のロムハックタイトル(特に有名なEBHHの方)の話に戻します。ロムハックの世界にはアングラながらコミュニティが形成されており(Fox氏は当時『Radiation』というハンドルネームで参加)、その作品のファンたちが思い思いの改造タイトルを発表しているのですが、それらタイトルを制作しやすくするためのツールもコミュニティで公開されています。元のタイトルがあって、それを改造するためのツールもあると聞くと、RPGツクールの延長でゲームが作れてしまうように聞こえてしまいますが、実際は大変な苦労をされたそうです。というのもMOTHER2はスーパーファミコンのタイトルであるためROMの容量制限がキツく、データを節約するための工夫がたくさん仕込まれていた関係で、改造すると予想だにしないバグが多発したといいます。加えて頼みの綱の改造ツールも、フタを開けると大勢の開発者によるツギハギの代物だったせいで非常に扱いづらかったそう。そんな厳しい状況にあったにもかかわらず、本作は納期が決まっていました。あくまでFox氏が自分で定めた納期ではあるのでしょうが、本作のテーマであるハロウィンまで、つまり2008年10月31日までに本作を仕上げたかったんですね。
この目標を達成するためにFox氏はまず計画を立てたそうです。プロット作成、全セリフの書き出し、敵キャラのイラスト作成、作曲、と全てのタスクを書き出して本作の制作に臨んだそうです。高校生にしてこのプロジェクトマネジメントぶりには驚嘆してしまいます。もっとも放課後~夜遅くまで作業(10月の誕生日は徹夜作業)というハードな毎日だったそうですが、それをなんとか乗り切れたのも最初に立てた計画があってのことでした。先ほど下の兄がRPGツクールで作品を完成させたエピソードを紹介しましたが、そこで述べた「自分のキャパシティに応じたゲームを企画すること」という学びが早速活かされた形です。
なんとか完成した本作は非常にユニークなつくりで、コミュニティを中心に高く評価されています。本作のストーリーは本家EarthBoundの終盤から分岐したような作りになっており、ネタバレを避けた表現をすると、主人公たちが帰ってこない世界のifストーリーです。本編と異なる主人公が、本編で登場したキャラクターと戦う、という展開。かなり過激なセリフ回しが特徴でして、まさに若気の至りという感じでFox氏本人は本作を若干黒歴史のように思っているところがあるそうです。ちなみに本作をダウンロードしてプレイすることは法律的にアウトなので、ご注意を(ここで紹介した以外にも色んな情報があるので、ご自身で調べられると良いと思います)。
ここで、先ほど軽く触れたMEGALOVANIAの話に戻ります。実はこの楽曲、元々このEBHHのラスボス戦のBGMとしてFox氏が作曲したものなんですね。この一曲はFox氏にとって特別な一曲のようで、キャリアを通じてアレンジを繰り返しながら使い回されています。本作EBHHでは『Megalovania』、後ほど語るHomestuckでは『MeGaLoVania』、UNDERTALEでは『MEGALOVANIA』と、大文字・小文字の使い分けが微妙に異なるいくつかのバージョンが存在します。一番有名なMEGALOVANIAのファンだけど、他のバージョンは聞いたことないという方は、YouTubeで検索したらヒットするので聞き比べてみるとよいでしょう。Megalovaniaの制作秘話なのですが、Fox氏が『MEGALOMANIA』(『ライブアライブ』で下村氏が作曲した一曲)を愛するあまり、この曲をリメイクしようとしたのが始まりだったそうです。しかし結局はリメイクではなく一から作曲することになったらしく、そのため素人にとっては全く異なる曲調のように聞こえます(音楽に詳しい方にとっては根っこのところで共通する部分があるのかもしれませんが)。なので、曲名だけが名残で似通っているんですね。ちなみに曲名の「vania」の部分の元ネタはドラキュラ伝説が残るルーマニアの地方だそうで、これはEBHHのハロウィンというテーマが影響したようです(コナミの『悪魔城ドラキュラ』も海外では『Castlevania』と知られていますよね)。
さてさて、ここまでEBHHの話が長くなってしまいましたが、本作はあくまでファンメイドでアングラな作品でした。Fox氏にとってオフィシャルなキャリアスタートは『Homestuck』というWebコミックへの楽曲提供だったと言われています。このHomestuckというのは2009年から2016年にかけて丸7年間連載されたアメリカのWebコミックで、単に読み物というだけではなく、アニメーションやBGMなどを含む作品でした。作者は、Fox氏より12歳年上のAndrew Hussie氏。Webコミックを掲載するHPの運営もしているHussie氏は、当時からHomestuckの作者としてアメリカのネット上で絶大な知名度を誇っていました。主人公が4人の少年少女とあってどことなくEarthBoundとの共通点を感じさせるHomestuckなのですが、Fox氏は連載初期からこの作品のファンだったそう。しかし2009年(連載開始時)に実施された音楽チームの公募に、Fox氏は応募しませんでした。当時はまだ自身を作曲家だと思っていなかったらしく、せっかくの機会をスルーしてしまいます。その代わりではないですが、別のコミックの楽曲をピアノカバーした動画をHussie氏のHPにアップロードし、いち読者としてコミュニティを盛り上げていました。しかしこの何気ない動画がFox氏のキャリアスタートのきっかけでした。というのも、この動画がHussie氏本人の目にとまり、作者本人の直々のスカウトによってFox氏はHomestuckの音楽チームに迎え入れられることになります。このときFox氏はまだ高校3年生でした。
さてドラクエⅧの開発を終えて一つ大きな目標を達成した気持ちになった日野氏は、次の挑戦としてパブリッシング事業への進出を考えました。それまでのレベルファイブはゲームのデベロッパー専任の会社。パブリッシャーからの出資を受けて、そのお金で面白いゲームを開発するのが仕事でした。言ってみれば、ゲームのクオリティに全集中する役割です。ではパブリッシャーの仕事は何かと言うと、ゲームの企画、デベロッパーの選定・出資、開発進捗の管理、新作ゲームの宣伝・販売・流通、と非常に多岐にわたります。言ってみれば、ゲーム開発以外は全てパブリッシャーの仕事なわけです。もし渾身の新作が売れなかった場合、パブリッシャーはデベロッパー以上に痛手を負うわけで、言ってみればハイリスク・ハイリターンな事業だと言えます。日本のゲーム会社でパブリッシング事業を展開しているのは、これまでレベルファイブが世話になってきたソニーやスクエニなど限られた会社のみです。そこに割って入ろうという野心を日野氏は抱いたわけです。
その後Fox氏は2010年に大学へ進学しますが、Homestuckへの楽曲提供は大学生になってからも続きました。Homestuckが人気コミックであったこと、そして楽曲自体のクオリティの高さも相まって、この頃からFox氏の評判が高まっていきます。ちなみに先述のHomestuck版MeGaLoVaniaは2011年が初出です。EBHHとUNDERTALEでMEGALOVANIAが流れた場面と同じように、Homestuckにおいても重要な戦闘シーンの劇伴として採用されました。
UNDERTALE制作
このように、大学生の本分としての勉学とHomestuckへの楽曲提供の二足の草鞋を履いていたFox氏でしたが、大学3年生の頃にふとWikipediaをサーフィンしていた時に、プログラムの「配列データ構造」のページが目についたそうです。この概念を用いればRPGのテキストシステムが作れることに思い至ったらしく、そこからは数珠つなぎのようにUNDERTALEの戦闘システムのアイデアを思いつき、RPGツクールでもロムハックでもないオリジナルのゲームを作ろう、となったようです。これまで膨大な数のゲームを遊んできた、そして愛してきたFox氏だからこそ、作品に盛り込みたいアイデアは湯水のように沸いたことと思います。実際Fox氏のインタビューからは、泣く泣く盛り込めなかったアイデアがたくさん語られています。しかし彼がゲームを作るときに必ず最初にすること、それは計画、でしたね。アイデアを書き出し、取捨選択し、ゲームコンセプトを固めたFox氏は、どうしても人手が足りないことに気づきます。音楽には自信があったし、プログラムも勉強しながら書けそうだと思ったようですが(実際自分で書いたわけですが)、アートに関しては自分一人では立ち行かないと判断しました。
そうしてFox氏がスカウトしたのがUNDERTALEのメインアーティストを務めることになるTemmie Chang氏でした(UNDERTALE本編にもしゃべる犬のキャラとして登場しています)。Fox氏は、なんとChang氏のTumblr(イラストSNS・ブログ)にいきなりゲーム制作に誘うDMを送ったというのですが、そのアグレッシブさには少し驚いてしまいます(制作モチベMAXでハイになっていたのでしょうか)。急に誘われたChang氏はというと、かねてよりゲーム制作に興味を持っていたらしく、DMをポジティブに受け取りました。友達にこんなメールが届いたと相談したところ、Fox氏がHomestuckのクリエイターの一人で大物だということを知り、一層興味がわいたと言います。そうしてChang氏はOKの返事を返し、そこからUNDERTALEのデモ版制作が本格化しました。Fox氏がWikipediaを見て始動したのは2012年12月だったそうですが、最初のデモが仕上がったのはそのわずか5カ月後、2013年5月でした。UNDERTALEがどんなゲームか、その一端を伝える簡素なものではありましたが、Earthboundの影響を色濃く感じさせるとぼけたユーモア・個性的なキャラクター、そして独創的な戦闘システムが話題になりました。そしてデモ版公開の一カ月後には、Fox氏はキックスターターにてUNDERTALEの制作支援のクラウドファンディングを募りました。Homestuckの音楽担当が、何やら面白そうなゲームを作っているらしいと界隈で話題になり、インディーゲーム一作目にして目標の5000ドルをはるかに上回る50000ドル(10倍!)の資金調達に成功しました。
その後Fox氏は、Chang氏以外にも数人の協力を得つつも、ゲームの大部分は自ら手を動かす形で制作を進めていきます。大学の勉強とHomestuckの仕事と並行して、今度は三足の草鞋の生活となりましたが、Wikipediaのページを見てから2年9カ月後の2015年9月にUNDERTALEは完成しました。当初は大学卒業年の2014年にリリース予定だったそうですが、どうしても入れ込みたいアイデアの関係で2015年にまでズレこんでしまったらしく、それでも破綻せずに無事リリースできたのは「実現可能な計画を最初に立てられたから」だとFox氏自身が語っています。ちなみにこれは小ネタなのですが、UNDERTALE制作当時のFox氏はHomestuck作者のHussie氏の家の地下で生活していたといいます。リアル地下で、ゲーム内の地下世界を作っていたというのは、少し奇妙でおかしいエピソードです。
さて、UNDERTALEは、モンスターが住む(人間が一切いない)地下世界に迷い込んだ主人公の少年(人間)が地上を目指す物語です。道中のモンスターは倒してもいいし、倒さず友達になってもいい、そこはプレイヤー自身の裁量に任せられる、というゲームシステムになっています。全編通して独特なユーモアに包まれた作品でして、この点はEarthbound(ひいてはそのディレクターの糸井重里氏)の影響を強く感じさせます。主人公の服装がEarthbound主人公・ネスの服装と似ている、なんて小ネタも込みでEarthboundは本作に最も強い影響を与えた作品であることは明らかです。その他の影響はと言うと、例えば戦闘システムは『マリオ&ルイージRPG』シリーズと東方Projectからの影響が強いです。RPGながらアクション要素を含むインタラクティブな戦闘システムはマリルイからの影響が強く、相手ターンでの弾幕避けは東方にインスパイアされた要素です。東方に関しては音楽への影響も強く、いわゆるZUNペットというトランペット調のアクセントもUNDERTALEのBGMでは多用されており、Fox氏がZUN氏をリスペクトしているのがよく分かります。敵キャラとの対話システムに関しては、『真・女神転生』シリーズから影響を受けたそうです。Fox氏自身、メガテンに関してはそこまでやり込めていないと語っていますが、その対話システムの新鮮さはずっと心に残っていたそうです。「誰も傷つかなくていいRPG(UNDERTALEのキャッチコピーの一つ)」は、メガテンに着想を得て生まれたんですね。
UNDERTALE発売後
このように色々な作品から影響を受けつつも、独自のゲームに昇華させたUNDERTALEは、リリース間もなく大ヒットとなります。様々なゲームメディアが付けたレビュー点数の平均点(Metascore)は92点という年に数本レベルの超高得点。毎年Game of the Yearというその年ベストのゲームを決める催しが各メディアで開催されるのですが、並み居る大手タイトルに食い込む形で年間最優秀作品も(一部のメディアにおいてですが)受賞しました。売上に関しては公式発表が無いのですが、Steamでの売上推定は半年で100万本、2024年現在は500万本以上とされています。
すぐに高評価が定着した本作でしたが、当初Fox氏はこれほど多くの人に受け入れられるとは思っていなかったそうです。しかしこの大成功に満足せず、Fox氏はすぐに日本語版UNDERTALEの制作に着手します。本作に限らずゲームの海外向けローカライズ作業(翻訳などの各種修正作業)というのは非常に手間・コストがかかる作業でして、既に十分すぎる売上だったUNDERTALEであえて日本語版を出すというFox氏の判断は、ひとえに日本という国への思い入れ一本で決まったものでした。英語版UNDERALEが発売されたわずか3カ月後には8-4(ハチノヨン|桜井さんのYouTubeチャンネルの翻訳も担当)というローカライズ担当会社(日本タイトルの海外向けローカライズ、海外タイトルの日本向けローカライズの両方を担当)に連絡がいって日本語版UNDERTALEの制作が始動したそうです。
この日本向けローカライズプロジェクトというのが、とにかく異例の対応づくめだったと8-4スタッフがインタビューにて語っています。通常こうしたプロジェクトは納期が最初に決められるのですが、Fox氏は納期を設けなかったと言います。代わりに「時間をかけてでも妥協のないローカライズにしたい」というのがFox氏の注文だったそうで、その結果2年半もの異例の超長期プロジェクトとなりました。代わりにそのクオリティは折り紙付きとなっていて、Fox氏から共有された細かいキャラ設定・舞台背景などを基に、これ以上ない丁寧な作りとなっています。例えば作中で初めて訪れる町『Snowdin』はSnowed in(雪に埋もれた)というちょっとしたシャレを北米プレイヤーに想起させる町名となっています。同じプレイフィールを日本人にも感じてもらいたいと考えたFox氏と8-4は、日本版では町名を『スノーフル』(スノー降る)に変更しました。町名変更に合わせてゲーム内のグラフィックまで変更(WELCOME TO SNOWDINという書かれた垂れ幕もWELCOME TO SNOWFULに変更)という細やかさで、とにかく丁寧すぎる仕事です。2017年にPS4・PSVita、2018年にNintendo Switch向けに日本語版UNDERTALEが移植されることになるのですが、家庭用ゲーム機向けにリリースしたというのもPCゲーマーの割合が比較的少ない日本の商流に合わせての対応でした。ここまで手厚い日本向け展開を頑張ったのは、日本への恩返しのつもりだったとFox氏自身語っています。
UNDERTALEの発売以降、Fox氏は日本での仕事が増えていきました。UNDERTALEのプロモーションでZUN氏と対談したのもこの時期ですし、『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』にUNDARTALEのキャラクター・サンズのスキンが実装されたのもこの時期です。スマブラに関しては、スキンのおまけでMEGALOVANIAのアレンジ版も付属するとあって話題になりました。このエピソードは個人的にエモさを感じていて、元々Earthboundのロムハックタイトルが初出の楽曲が任天堂公式に採用されるというのは、当時グレーだったけれども作品愛に溢れていた二次創作が遠回しに肯定された出来事だったと思っています。ちなみにFox氏は桜井氏の自宅でスマブラ対戦をして、桜井氏を負かしてしまうほどの腕前だそうです(ピンクのキャプテンファルコ使い)。桜井氏やZUN氏だけでなく、憧れの糸井重里氏とも親交が生まれたそうで、Fox氏は業界周りの友人知人が非常に多いクリエイターのようです。
Fox氏の人たらしな面を感じさせるエピソードがあります。ポケモンの開発で知られるゲームフリークという会社で音楽を担当されている方がUNDERTALEのファンで、Fox氏とTwitter上で交流していたそうなのですが、日本語版UNDERTALEの発売記念パーティーで初めて対面で会ったそうです。そのときにFox氏は「ゲームフリークで新作を作るときは新曲を作るよ」と話したそうで、その後ゲームフリークが2019年に『リトルタウンヒーロー』という作品を制作した際にFox氏にダメ元で依頼したところ、Fox氏は快諾されたそうです。社交辞令ではなかったんですね。ゲームフリークに来社してゲームコンセプトのすり合わせなどをした後、Fox氏とゲームグリークのスタッフたちは飲みに出かけたそうです。その後解散となって、翌朝にスタッフが出社してメールチェックしたところ、なんとFox氏から「こんな感じでどう?」と一晩のうちに制作された楽曲が送られていたと言います。しかも一発OKの出来だったと言いますから、改めて色々と型破りな方のようです。ゲームフリークとはこの時の仕事が縁で、その後ポケモン剣盾・ポケモンSVでも楽曲提供が続くことになりました。ポケモンへの楽曲提供は有名な話かと思いますが、そのきっかけはUNDERTALE日本語版発売記念パーティーだったというのはあまり知られていないのではないでしょうか。
UNDERTALE以降、他作品への楽曲提供の仕事が目立っていたFox氏でしたが、UNDERTALEを更にパワーアップさせた新作の『DELTARUNE』を制作中です。DELTARUNEというタイトルはUNDERTALEのアナグラム(文字の入替え)にもなっているのですが、Fox氏によると異なる世界が描かれるとのことです。UNDERTALEと比べて大ボリュームの構想らしく、DELTARUNEではチームを組んでのゲーム開発となっており、Fox氏にとって新たなチャレンジ。全7章の内、おそらくデモを兼ねたと思われる1章は2018年に無料で公開されましたが、当初有料公開予定だった2章はコロナ禍の世界を応援する気持ちで2021年に無料公開されています。続く3章・4章は2025年の公開を予定しているとのことで、期待して待ちたいと思います。
参考文献
興味ある方は折りたたみを展開ください。
https://www.famitsu.com/news/201707/12137087.html
https://www.nintendo.com/jp/topics/article/e3db9051-ab54-11e8-b123-063b7ac45a6d
https://www.famitsu.com/news/202303/24296804.html
https://www.jp.square-enix.com/music/sem/page/lalost/interview
https://news.denfaminicogamer.jp/interview/181019
https://www.reddit.com/r/Undertale/comments/dbzwfd/so_it_turns_out_toby_fox_went_to_my_high_school/
https://tobyfox.fandom.com/wiki/Arn%27s_Winter_Quest
https://www.romhacking.net/hacks/37
https://tobyfox.fandom.com/wiki/EarthBound_Halloween_Hack
https://note.com/hoshi_tabeyo/n/n45ba0ca0eede
https://www.nicovideo.jp/watch/sm39556833
https://www.youtube.com/watch?v=JQGMc4YJouE&t=167s&ab_channel=0924gengai
https://premium.kai-you.net/article/423
https://note.com/textdump/n/nfaccb779d638
https://news.denfaminicogamer.jp/news/231129g
https://www.4gamer.net/games/384/G038441/20170802059
https://niju.hatenablog.com/entry/20171001/1506869410
https://web.archive.org/web/20210906181207/
https://www.pcgamer.com/the-making-of-undertale/https://www.npr.org/2020/10/17/924581553/make-love-not-war-five-years-of-undertale
https://www.escapistmagazine.com/undertale-dev-every-monster-should-feel-like-an-individual/
https://toby.fangamer.jp/interviews/temmie
https://www.nintendo.com/jp/topics/article/22f35d51-a765-11e8-b123-063b7ac45a6d
https://www.4gamer.net/games/384/G038441/20170814015
https://twitter.com/dailytobytrivia/status/1852411729952804998
https://corocoro-news.jp/news/75887/
https://automaton-media.com/articles/interviewsjp/undertale-developer-toby-fox-interview/